言葉を相手に届けるには

2020年9月9日

何気に見ているものの中から、指導のヒントをもらうことは多々あります。
知的障害をもつ短距離ランナー、川上春奈さんに陸上の練習を勧めたのは、坂口先生という陸上の指導者として35年の経験を持つ先生でした。インターハイや国体にも多くの選手を送りだしています。
彼は、はじめての特別支援学校での指導でした。春奈さんに陸上の指導をしますが、指示が伝わりません。”全速力”という言葉を伝えるのにも工夫が要ります。試行錯誤ののち、”全速力”は”ウルトラ”と表現されます。
「…ウルトラで来い!最後までウルトラ!…」
春奈さんが世界選手権400mリレーの選手に選ばれます。今までの個人走とは違い、”バトンの受け渡し”という新しい動作が加わります。春奈さんはバトンを受け取るだけで済むアンカー走者になりました。バトンゾーン内で、バトン受け渡しの両者のスピードをマックスにもっていく指導は大変です。
坂口先生「…ウルトラで逃げる!…」
今までの”全速力=ウルトラ”だけでは、うまく伝わりません。(”逃げる”という表現も絶妙です!)
坂口先生「…ピューと逃げる!…」
これが春奈さんへ届きます。
坂口先生と春奈さんとのコミュニケーション。それは単に選ぶ”言葉”だけの問題だけではなく、心と心のつながりが生んだ特別の繋がり。坂口先生は春奈さんの様子をしっかりと観察することで、自分の発した言葉がどのくらい届いたのか、届いていないのかを常々見極めているのですね。